「仁志野町の泥棒」(辻村深月)

「私」の「生きにくさ」に目がいってしまう

「仁志野町の泥棒」(辻村深月)
(「日本文学100年の名作第10巻」)
 新潮文庫

「日本文学100年の名作第10巻」

「りっちゃんの家のおばちゃん、
泥棒なんだよ」。
クラスメイトから
その話を聞いた「私」は驚く。
どうやら近所でも有名ならしい。
仁志野町は
田畑に囲まれた住宅地。
「泥棒」などという言葉とは
無縁だった。
「私」は律子との接し方に…。

町内の民家の留守に上がり込み、
盗みを繰り返す律子の母。
田舎町ゆえにそれを通報もせずに
「なかったこと」にして
平穏を保とうとする大人たち。
主人公・「私」は、そんな大人たちの姿に
違和感を感じているのです。

〔主要登場人物〕
「私」(ミチル)
…現在は小学校の教師。小学校、
 そして高校生時代を振り返る。
近田(水上)律子
…小学校3年生のときに転校し、
 「私」の同級生となる。
律子の母
…近所のする宅に上がり、金品を盗む
 盗癖がある。そのため一家は
 度々転校している。
優美子
…「私」の同級生。
 周囲から信頼を寄せられている。

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物語の構造は、番号なしの冒頭部と、
1~7の番号が付された本編から
成っています。
冒頭部は現在、
「7」は高校時代の思い出ですので、
筋書きの中心は1~6の部分、
小学校時代の回想になります。
注目すべきは、
盗みを繰り返す律子の母親でもなく、
また母親の盗癖を恥じらう一方で
自らも万引きしてしまう律子でもなく、
その事実をどうしても
自己の内部で消化できないでいる
「私」なのだと考えます。

終末「7」、偶然再会した律子に対し、
「私はどう反応すればいいか
 わからない」

ところが律子は
「私」の名前さえ思い出せません。
また、冒頭部の一節、
「彼女には何の後ろめたいところは
 ないのだろう」
「そんな彼女の一方で、
 私はここで何をしてきただろうか」

大人になって再会してなお、
「私」は心に
わだかまりを抱えているのです。

もちろん「窃盗」「空き巣」「万引き」は
許されない行為であり、
いかなる事情があれ
大目に見るべき問題でもありません。
しかし狭い人間関係の中で
視野を広く保ったとき、
それを表沙汰にせず、
穏便に済ませることも
人間社会ではあり得るでしょう。
「私」はそれを理解できず、
心にとげが刺さったまま
生きているのです。

「盗み」という汚点を残した当人すらも
それを「なかった」ように振る舞う中、
「私」だけが
高校生になっても社会人になっても、
「しこり」として残しているのです。
そうした過敏で繊細な神経なら
おそらく、
相当「生きにくさ」を感じながら
ここまで生きて生きたであろうことを
推察できます。
「そんな彼女の一方で、私はここで
何をしてきただろうか」には、
作品には描かれていない「私」の
「これまで」が現れているように
感じてなりません。

本作品はもともと、
小さな町で起こる犯罪を扱った作品集
「鍵のない夢を見る」の一篇として
編まれたものです。

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そこから考えると主題に関わるのは
律子とその母の「盗癖」なのでしょうが、
どうしても「私」の「生きにくさ」に
目がいってしまいます。
みなさんはどう読まれるか、
教えていただきたい作品の一つです。

「日本文学100年の名作第10巻」
 収録作品一覧

2004|バタフライ和文タイプ事務所
             小川洋子
2004|アンボス・ムンドス 桐野夏生
2005|風来温泉 吉田修一
2005|朝顔 伊集院静
2006|かたつむり注意報 恩田陸
2006|冬の一等星 三浦しをん
2007|くまちゃん 角田光代
2007|宵山姉妹 森見登美彦
2008|てのひら 木内昇
2008|春の蝶 道尾秀介
2009|海へ 桜木紫乃
2009|トモスイ 髙樹のぶ子
2009| 山白朝子
2009|仁志野町の泥棒 辻村深月
2013|ルックスライク 伊坂幸太郎
2013|神と増田喜十郎 絲山秋子

〔辻村深月の作品〕

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